(文中敬称略)
 
●代谷
 原子力の必要性についてもう少し付け加えることがあったらお願いしたいと思います。

●伊藤
 日本には水と風と太陽しかなく、石炭、石油、ウラン燃料もありません。ですから中東などで戦争が起きると大変です。そういう意味からも、日本は分散して色々な形でエネルギーをもたなければいけない。その中でも原子力にウエートをもう少し置いてもいいのではないかと思います。もう一つ、日本で唯一採れるエネルギー源が、原子炉でできるプルトニウムです。これを有効に使って、国産のエネルギー源として活用できるようになってほしいと思っています。

主要国のエネルギー輸入依存度
1999年
(注)イギリス、カナダはエネルギーの純輸出国である
出典:「ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES,1998-1999」

●代谷
 エネルギーセキュリティの問題に関連して、日本同様少資源国であるフランスの立場で、もう少し世界の視点から見たお話をいただけたらと思います。

●ラヴィンニュ
 ヨーロッパのエネルギー自給率の50%は、完全に原子力のおかげです。これからドイツも脱原子力の政策を取っていきますから、このままいくと、新しい原子力発電所を造らない限り少しずつ自給率が下がり、20〜30年には20〜30%になるでしょう。
 それと原子力で必要な発電量を考えるには、次の2点を考えなければいけません。まず生活レベルをどのくらいに保ちたいのか。高度文明にはエネルギー、特に電気が不可欠です。「原子力を止める」としたらどうやって電気をつくるのか。自給自足を考えたら新エネルギーが優先されますが、技術的な問題がある。もう1点は二酸化炭素の排出量です。これらのことから将来を考えると、ヨーロッパでは可能な限り原子力発電所を増やし、安定した安い電気をつくる方が良い。特に途上国では、経済成長に伴い大容量の電気が必要で、これらに応えられるのは原子力発電所しかないと思います。

各種電源別の二酸化炭素排出量
1999年
出典:電力中央研究所報告書ほか

●代谷
 新エネルギーはエネルギーの発生密度が低く安定供給という面で問題がありますね。

原子力を新エネルギーで代替する場合
原子力発電所1基を代替えする場合
出典:日本電子力産業会議「原子力ポケットブック2000年版」

それに比べて原子力はエネルギー密度が非常に高いが、デメリットとして厳重な管理体制が必要という面もある。それに関して、事業者としての危機管理体制について高安さんからご紹介いただけますか。

● 高安
 危機管理の一番のポイントは、危機がどこにあるのか、何が危機なのかということだと思います。危機の認知・予知を教育したり、リスクの存在を意識する作業マニュアルを作る。次のステップである予知と発生防止対策は、事業者のみで対応するには限界もあり、原子力災害対策特別措置法と原子炉等規制法とが制定されています。事業者としての危機管理としては、危険を予知して発生対策をとると同時に、実際に危機状態に陥った時には、事業者に第一原因の責任がありますが、自治体と事業者間で協力しながら拡大防止と応急処置を取ることだと思います。

●代谷
 井上さんは、テロの前後に原子力発電所を訪れられて違いを見てこられたそうですが。

●井上
 9月6日、子供たちへの環境科学を勉強したいという大学生の環境問題学習に同行しました。学生さんのレポートには「セキュリティがすごい」「非常にシステマティックにきちんとされているので安心した」「これほどきちんとしなくてはいけないということは、つまりこれは恐いんだ」という感想と、それを踏まえて見学をさせてくれることに対する感謝、自分で現場を見たことが、将来、子供達を教える時に大変役立つだろうとありました。9月6日は通常のセキュリティ対応だったと思います。
 そして10月17日、発電所構内にはバスで入れないので発電所の入り口で降り歩いて行きました。目に見える形でシステムが変更されていて「きちんとされている」と実感しました。セキュリティにしてもリスクに対する対策であっても、はっきり目に見える形にした方がいいと思います。
 先ほど話のあった生活レベルをどうするのかは、私たちが一番関心あることです。どのレベルで生活していくのかということに生活者は敏感ですが、「不便になるのは嫌、電気代は安くしてほしい、だけど温暖化もCO2が出るのも嫌。セキュリティは事業者がちゃんとやってくださいね、私たちは安全を確認する立場です」という姿勢になると、資源は私たちの関知するところではなくなります。この人任せの姿勢では、日本は一蓮托生で成り立たないのではと少し感じるようになってきました。私たちが生活者として大きな問題の一部を担うとするなら、自分の生活レベルを下げないでもできる省エネを日常化させていくことが、私たちの生活のリスクマネジメントじゃないかなという気がします。

●代谷
 原子力危機管理から生活の危機管理ですね。危機管理体制はフランスではどう考えられていますか。

●ラヴィンニュ
 フランスでも日本同様、原子力発電所を設計している技師は、地震や火災、様々な事故を想定して建設しているので破壊は相当困難です。それと原子力が標的になったら危ないから原子力を止めましょうという考え方は不平等です。飛行機が墜落するから飛行機を止めようとか飛ばないようにしようとか考えないですよね。フランスの場合、残念ながら80年代にテロ事件が相次いで起こり、現在は原子力施設だけでなく、ダムやたくさんの所を軍隊が防御しています。

●代谷
 教育あるいは広報について、先ほど伊藤先生からは寺田寅彦の話を引用して正当に怖がる前に正確に知ってほしいという話がでましたが。

●ラヴィンニュ
 フランスでは発電所を身近に感じてもらうため、よく見える冷却塔に絵を描いたり、見学者の招待などに取り組んでいます。また周辺の小学生や先生に電力会社から必要な教材を配り、原子力発電所の知識を持ってもらっています。フランスの電力会社はテレビ広告をしたり、日本のように発電所に対する理解活動は一所懸命していないと思います。

●代谷
 ある意味で原子力が定着しているということでしょうね。私もフランスを訪れた時に発電所へ行ったんですが、周辺の小学生を呼んでお話されていました。発電所は川の横にあり、モダンな冷却塔しか見えないけれど周囲との違和感はあまりなかったですね。

●ラヴィンニュ
 面白い話があるんです。1号基なんですけど、大きなボールみたいな形の中に原子力発電所が入っているのですが、60年代に建設されていたので、解体ということになった。ところが周りの人が建物を破壊するのは駄目だと、市のシンボルになっているから壊さないでくださいと。電力会社は困りましたが、博物館にして使うことにしました。

●代谷
 教育のお話でほかにございましたら、お話をお願いいたします。

●伊藤
 日本では、皆さんご存知のように、原子力、放射線に関して義務教育でほとんど扱われていない状態です。ちょっと申し訳程度にあるけれども、先生方はわからないと言っているのが現状だと思います。以前テレビで見たことがあるんですが、フランスの小学校では先生方が放射線や原子力について教えていました。やはり学校の義務教育でそういうふうに、きちっと教育をしなくてはいけないのではないかと思っています。ただ教えるだけじゃなく、知ってもらうためには、見るだけでは駄目なんです、触らなくては。触るということは五感に感じるということです。そういう意味では、原子力発電所を触るわけにはいけませんので、原子炉運転体験ができる近畿大学を大いに利用していただきたいなと思います。
 実は近畿大学では各地の先生方を集めて13年前から研修会というのをやっています。現在、触れることのできる施設は日本で近畿大学だけですが、全国に作る必要があると思います。少なくとも原子力発電所のある所にそういう施設を造り、見学して実際に原子炉を運転していただく。最近、義務教育の中に総合学習というものができました。先生方にこんな機会がありますよと、原子力に携わる者から発信しないといけない、また、そういった施設を造らなければいけないと、私は個人的に思っています。




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